2015_02
11
(Wed)15:51

サイコパスSS→風邪っぴき

 カガリン執行官就任から少し経った頃と思ってください。

 「けほ…」
 宜野座は咳を抑え込もうと必死だった。ここ数日、のども頭も痛い。鎮痛剤は飲んでいるものの中々治らなかった。それどころか、熱まで出てきた。
 「報告書を出してくる」
 「ギノ…顔色悪いぞ」
 「大事ない」
 どう見ても元気じゃないのに無理をしてでも出勤してくる宜野座に対して誰もが心配になってきた。幸い出動するような事件はないものの、このままではまずい。だが本人は局長に報告書を提出すると言って部屋を出た。
 「風邪ひいているじゃん、あれ」
 「意地を張るのもどうかと思うけど…」
 「それだけじゃないはずだぜ」
 狡噛は征陸の方に視線を向けると、やはり心配で仕方ないというオーラむき出しだった。

 宜野座は禾生に報告書を提出し、部屋へ戻ろうとしていたが壁伝えだった。何が何でも倒れるわけにはいかない一心で歩いていた。けれど襲ってくる高熱や頭痛は容赦ない上、意識も朦朧としていた。
 「ここで…倒れ…るわけ…には…」
 そこから彼の意識は途切れてしまった。

 「ギノさん、おっそくなーい?報告しに行ったんじゃないの?」
 「そうね。几帳面な人だし、油を売る性格じゃないはずだけど…」
 縢と六合塚は未だに戻らない上司の事が気になっていた時、狡噛のデバイスに通信が入ってきた。相手は青柳だった。
 「青柳どうしたんだ?」
 「全員、医務室来なさい。すぐに分かるわよ」
 その声は焦りと怒りが混じっていた。もしやと思い4人は医務室へ向かったが、予想的中…宜野座は寝込んでいた。
 「ただの風邪だけど熱と頭痛が酷いから暫く仕事はできないわね」
 「の…監視官は暫く休ませるほかないな」
 縢は征陸が宜野座を名前で呼ぼうとしている事に引っかかったが今はそっとしておいた。しかし六合塚。
 「けれど宜野座監視官がこの状態では事件が起きた際、我々は外出できないですよね」
 その言葉に全員はっとした。狡噛は執行官になってしまい、監視官は1人空席。その穴埋めをするべく宜野座の負担は大きくなっているが、そこをものともしない仕事ぶりに縢は感心していた。けれど最近顔色が悪くなっているのは分かっていたので心配じゃない訳ではなかった。
 「そうなったら私が一係の監視官の兼任もするわ」
 「いいのか?」
 「こんなに弱っている友達をほっとけないもの」
 青柳は狡噛に親友を大事にしろと一言言ってから、その辺の融通をきかせるために医務室を後にした。
 「ギノさん、なんで…こうなったら俺達に迷惑がかか…」
 「縢!」
 狡噛は縢を諌めた。怒鳴ってしまったため、六合塚は病人の前ではつつしめと言ったが幸い彼は眠っていた。征陸は丁寧に汗を拭いては冷却材を入れたタオルを額に乗せていた。
 「ギノは辛くたって監視官としての責務を果たそうと必死だった。自分が休んだら俺達の行動に制限がかかると分かっているから、無理をしてでも働いていたんだ。その位わかるだろ?」
 「そうだけど…。でも、こうして倒れたらそれこそ頑張った意味がないじゃん」
 縢は宜野座の小言は嫌になる時があるものの、決して嫌ってはいなかった。なんというか真面目で堅物だが根は分かりやすく、つい遊びたくなってしまう時がある。だが征陸の顔つきは寂しそうなものだった。
 「監視官は素直で良い奴だよ、縢。それだけは言わせてもらう」
 「とっつぁん…分かっているって」
 「志恩、監視官の看病を狡噛に押し付けてもいいかしら?後の仕事は私たち3人で何とかする」
 「名案よ、弥生。じゃ、慎也君は宜野座君の看病をお願いね」
 志恩の笑みの裏にはやれ、と大鉈をひきずる般若が出てきたと錯覚するほど恐ろしいものだったが六合塚達はそれを気にせず、志恩に挨拶して職場へ戻った。

 「あーあ、慎也君って罪よねー」
 「なんだよ?」
 「宜野座君はね佐々山君の殉職でかなりショックだったけど、慎也君の事をどうにか出来なくて酷く傷ついて顔をしていたわよ」
 主人公の身を案じるヒロインみたいだった、と軽口をたたくが目は笑っていない。施設にいる間、気丈にふるまっていたことを後で征陸たちから聞いていたが想像以上にダメージが大きかったと狡噛は察した。
 「後、うわ言のようにお父さんと佐々山君と慎也君の名前を呟いていたわ」
 「そうか…」
 「ん…こうがみ?」
 狡噛は起き上がろうとする宜野座に待ったをかけた。
 「無理するな、お前の事だ。このところ眠っていないだろ?だから、今はゆっくり休んでほしい」
 「でも…やすんだら…」
 「大丈夫だ、青柳がいざとなったら俺達の臨時監視官として動いてくれる」
 「そ、そう…か…」
 「しばらく一緒にいるから」
 狡噛は宥めるように頭を撫でれば宜野座はそのまま眠った。まだ苦しそうだったが少しだけ楽になっているようだ。しかし普段の張りつめている表情から想像できないほど、幼く感じた。

 その頃征陸たちは青柳と一緒におり、宜野座が復帰するまで彼女が一係の監視官を兼任する話が通ったことを聞いた。
 「という訳で少しの間、皆の上司って事になるわ」
 「お世話になります」
 「コウ、ちょっといいか?」
 征陸は狡噛の通信デバイスにつなげて、さっきの事を伝えた。縢の方はというと…、
 「ギノさんの見舞いがしたいから果物買いたいー」
 「はいはい。私も同じこと考えていたからみんなで行きましょう」

 変わって狡噛たち。
 「宜野座君、この薬を飲んでね」
 「うん…」
 半分眠そうなのか、熱の所為か、宜野座は素直すぎる位素直だった。張りつめた表情を全くしておらず、かなり子供っぽい。これには志恩も狡噛も驚いた。
 (む、無防備って怖いわね…)
 (こんだけ素直なギノは見たことないぞ、俺でも)
 「どうしたんだ?」
 「早く元気になって欲しいって思っただけだ」
 狡噛は宜野座の頭をまた撫でた。平時なら照れ隠しに何か言ってくるが今はそれがない。ふと佐々山の事を思い出した。いつも宜野座を茶化している佐々山だが実際は結構心配しており、わざと怒らせてガス抜きさせることもあった。宜野座が素直に反応するのが楽しいから茶化してしまうのが本音だろうが、それだけではない事はバレンタインデーの時に分かった。
 「佐々山が…いなくなって…狡噛が…辛い思いを…しているのに…何もできな…くて…凄く…つらか…った…」
 「ギノ…」
 「…なんで…力に…なれな…」
 すべてを言い切る前に宜野座は狡噛にもたれかかる形で眠り始めてしまったので、狡噛は再び寝かしつけた。こんなに本音を語るのも珍しかったが、それよりも泣きながら語る様子が痛々しかった。丁度それを見た征陸は何やら不審な目つきで狡噛を見ていた。
 「征さん…慎也君は何もしていませんからね…」
 「それは分かるが、コウ…伸元に何かしたら容赦せんぞ…」
 「とっつぁん、何もしないって…」
 「俺がどうこう言えた義理じゃないが伸元の心配を突っぱねたやつが言えた口か」
 それには狡噛も反論できなかった。それから六合塚達がバスケットを持ってやってきた。見舞いの品をたくさん買ってきたとのことだった。
 「あれ、ギノさん寝ている?」
 「狡噛、あんた宜野座さん泣かした?」
 「してねーから…だから何でそうなるんだよ…」
 さっきから一方的に責められてうんざりしている狡噛に縢は仕方ないんじゃないの?と返したので頭を軽くひっぱたいたが以前佐々山がこんな事を言っているのを思い出した。

 『ギノ先生、今回の事件で随分堪えたみたいだな』
 『佐々山?』
 『やっぱり、あの人は素直すぎるし優しすぎる』
 『まあな。後、結構わかりやすい』
 『だから見ていられない時がある。とっつぁんには口ではああだけど、本当はどうしたらいいのかわからない子供って感じ』
 『それ、ギノには言うなよ』
 『分かっているって。じゃあ、ギノ先生を励ましに行きますか』

 「慎也君、どうしたの?」
 「いや…少し昔の事を思い出した…それだけだ」
 ボーっとしている狡噛に志恩は声をかけると彼は宜野座の頭に乗っている冷却材を取り換えた。

 おまけ
 宜野座「皆…その、すまない…。数日間寝込んでしまって」
 縢「ギノさん、律儀に謝らなくてもいいから。でも、これからはちゃんと休んでねー」
 宜野座「善処する…が、縢。お前は俺がいないからって不真面目になるなよ」
 縢「ブーブー」
 狡噛「ギノ、もう大丈夫なのか?」
 宜野座「ああ、まだ喉が少し痛いが問題ない。それと…」
 狡噛「ん?」
 宜野座「看病…嬉しかった…その…ありが…とう」
 六合塚「照れ隠しですね」
 宜野座「そっとしておいてくれないか、六合塚!」
 征陸「まあまあ、あまり反応すると喉をまた傷めるぞ」
 宜野座「分かっている!」
 狡噛「おーい、あまり無理すると倒れるぞ」
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C.O.M.M.E.N.T

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